食糧気候問題の解決のために、ヴィーガンになる必要はない?

 私たちの経済成長、食、また食料廃棄のあり方を変えない限り、世界は地球温暖化を比較的安全かつ最小にとどめることはできないであろうと言われているが、私たち全員がヴィーガンになる必要はないとの衝撃的な論が新たな研究から発表された。

 研究者たちは食糧システムへの5種類もの広範な修正点に着目し、それらがどの程度温暖化に対して効果があるかを計算した。 

 世界の食糧システムが現在の状態のままであれば、今後80年間で1.5兆トン近くの温室効果ガスが排出されるということが研究で明らかになった。これは、牛の排せつ物、肥料、管理の行き届いていない土壌や食糧廃棄から発生する。
 それだけの排出量は、仮に食糧の2倍の炭素汚染を生み出す化石燃料の燃焼を地球が止めたとしても、2015年のパリ協定で設定された目標以上に地球を温暖化させるのに十分な量である。

 「全世界が気候目標を達成するために肉をあきらめる必要はない」と、研究の共著者であるミネソタ大学の生物システム工学教授のジェイソン・ヒル氏は述べている。「私たちは、より良く、より健康的な食品を食べることができる。また食品の生産方法を改善することができる。そして、食料廃棄を減らすことができる。」と話す。
     

アメリカとイギリスの研究者たちは以下のことを明らかにした:

 ー世界中がプラントベース食品の多い食事(plant-rich diet)へほぼ完全に移行すると、温室効果ガス約720 億トンを削減することができる。
 
 ーほとんど全員が年齢に基づく適切なカロリーを摂取した場合、(多くの大人は1日2,100カロリー前後)温室効果ガスは約4,500億トン削減されるだろう。

 ー肥料を少なくし、土壌をより良く管理し、より良い輪作を行うことにより、農業の炭素効率が上がった場合、6,000億トン近くの温室効果ガスを削減できるだろう。

 ー農場が遺伝学やその他の方法で収穫量を増やすことができれば、温室効果ガス約2,100億トンを削減することができる。

 ーもし人々が食べ残しを減らすか、あるいは貧しい国の人々に食べ物を届けることで食料廃棄を減らすことができれば、4000億トン近くの温室効果ガスを削減することができるだろう。
       

 あるいは、世界がこれら5つのことをそれぞれ実行してその半分しか実行できなかったとしても、排出量は約9,400億トンも激減することになる。そして、化石燃料の排出量を削減することで、パリ協定が目指す温暖化をさらに0.3度から0.7度防ぐチャンスを世界に与えることになるだろうと、この研究は明らかにした。

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)を率いるハンス・オットー・ポアートナー氏は、必要とされる排出削減を達成するための多くの道筋を示す上で、この研究は理にかなっていると述べた。
    

 「大豆の生産とそれを飼料として輸出するために熱帯林を伐採するなどの持続不可能な行為を止めるだけでなく、食品廃棄を止めることで可能になるイノベーションが多くある」と、この研究に参加していないポアートナー氏は述べている。また、「肉の消費量を持続可能なレベルまで減らすことが重要であることは無視できない。」とコメントしている。
     

 「その消費量を減らすことと合わせて、肉や動物性脂肪の少ない地中海式の食事にすれば温室効果ガスの削減にもつながり、そして人々もより健康になるだろう」と前出のヒル氏は述べている。

 この研究に参加していないBreakthrough Instituteの気候局長、ジーク・ハウスファーザー氏は、「全世界にヴィーガンになるよう説得するようなことは、最初から不可能なことであっただろう」と述べている。「この論文は、さまざまな行動と技術的な解決策を組み合わせることで、本当の変化を生み出すことができることを示している」と話す。

 世界の温室効果ガスのほとんどは石炭、石油、天然ガスの燃焼によるものだが、一方で4分の1から3分の1は農業によるものだとヒル氏は指摘する。
     

 フランスのモンペリエ大学の農学教授であるジョン・ロイ・ポーター氏は、ヒルの研究による計算の一部は排出量を二重にカウントしていると述べたが、ヒルはこれに異議を唱え、「このような論文で本当に利益を得るのは、油田から農家の畑に注意をそらすことができる化石燃料のロビー団体だけだろう 」と心配していると述べた。
            

参考サイト: https://apnews.com/article/food-climate-problem-does-not-veganism-ed1ae1cd85cca04d1e4442909ef13fdc